こんな人におすすめ
- 1970年~1990年ごろの外国人プロレスラーが好きな人
- プロレスラーの逸話・伝説が好きな人
- プロレスの歴史検証が好きな人
まったく残念ではない「残念な伝説」
本書は、新日本プロレスで1972年〜1998年まで、レフェリー兼外国人レスラー担当を務めたミスター高橋氏による、古き良き時代の外国人レスラーの伝説を検証した本です。
当時の外国人レスラーというと、数々の逸話が残されており、思わず感心するような逸話もあれば、それはないだろうというような眉唾ものの逸話も少なくありませんでした。
本書のタイトルこそ「残念な伝説」ですが、これはプロレス界の面白さを逆説的に表現したもので、その伝説の真偽がどうであれ、実際に残念な伝説は一つもありません。当時を実際に見て聞いてきたミスター高橋氏だからこそ書ける伝説を一つずつ紐解いていきましょう。
伝説が独り歩きしてこそ一流のプロレスラー
外国人レスラーの逸話すべてが真実ではありません。
中にはまったくの事実誤認な逸話もあるようです。今のようにインターネットがなかった時代、外国人レスラーの情報は雑誌や書籍から入ってくるものに限られていました。もしかしたら、当時の記者が勝手にでっち上げた逸話もあったことでしょう。
しかし、当時の外国人レスラーには、それを真実と思わせる凄みがあったのです。逆にいうと、逸話が伝説として残ってこそ、一流のプロレスラーといえるのではないでしょうか。
プロレス界の残念な伝説
とくに印象に残った逸話を紹介します。
タイガー・ジェット・シン
タイガー・ジェット・シンはいまでも「インドの狂虎」のギミックを守り続けている
伝説008(P30)
タイガー・ジェット・シン選手というと、1972年に新日本プロレスに初来日を果たし、もっとも新日本プロレスを潤したといわれるレスラーの一人です。
「インドの狂虎」というニックネームから分かる通り狂乱ファイトは凄まじく、相手レスラーはもちろん、関係者やファンにまで容赦なく手を出すほどでした。
2000年代になって、ファイトスタイルを変えるレスラーも少なくありませんが、本書によると今も彼は変わっていないようです。ある出版社が、シン選手の「内心」に迫る自伝の企画を提案しましたが、シン選手は承知しなかったようです。
内心に迫った自伝を書くということは、これまで守り続けてきたギミックの一部を手放さなければいけないからです。
いまでも「インドの狂虎」であり続けるタイガー・ジェット・シン選手はギミックを大切にする、超一流のレスラーなのです。
ザ・ロード・ウォリアーズ
暴走戦士「ザ・ロード・ウォリアーズ」の「ネズミを食って生きてきた」神話
伝説25(P64)
ザ・ロード・ウォリアーズを知らない往年のファンはいないでしょう。
モヒカンと逆モヒカンにペイントした顔、筋骨隆々の体。今でも漫画の悪役というと、彼らをオマージュして書かれることがあるようです。
ファイトスタイルも独特で、テーマ曲「アイアンマン」が流れる中、猛スピードでリングに向かい、わずか数分で相手を徹底的に痛めつける姿は新鮮そのもの、当時小学生だった私が影響を受けないはずはありません。あっという間に私達のプロレスごっこは、ザ・ロード・ウォリアーズ風がスタンダードになりました。
そんな私達をさらに驚かせたのが、彼らの出自です。なんとスラム街でネズミを食って生きてきた」というのです。当時の私にはスラム街というのはよく分かりませんでしたが、ひどく荒廃した土地でネズミを食べていた姿を想像しては震え上がっていたものです。
種明かしをするようで申し訳ないですが、残念なことにこの伝説は真実ではなかったようです。しかし、今でも彼らを見ると、スラムでネズミを食べている姿を想像してしまいます。彼らにピッタリの伝説です。
フレッド・ブラッシー
ブラッシーの「噛みつき流血」を見て高齢者11人が「ショック死」した
伝説80(P180)
私はこれをずっと真実だと思っていました。
だって、新聞にも載っていたんだもん。
でも実際には真実ではなかったようです。
いや、もしかしたら真実だったのかもしれませんが、その因果関係は認められなかったのです。たしかに亡くなったが、試合後を見て時間が経ってからのことであり、死因がほんとうにブラッシー氏の噛みつきを見てのことだったのかは証明ができないのです。
本書全体を通してのことなのですが、当時はプロレス雑誌のみならず、一流新聞と呼ばれるものもかなりの飛ばし記事があったようで、ときたま事実と異なることが真実として語り継がれることもあったようですね。
本書は「プロレス界の残念な伝説」ですが、プロレス以外の残念な伝説も見てみたいです。
知らなきゃよかった プロレス界の残念な伝説について
本書では、プロレス界に残る100の伝説を、ミスター高橋氏が一つずつ検証します。すべての伝承が見開き2ページで完結しているので、短い時間でもサクッと読める良作です。
- はじめに たった一粒の真実
- 1章 黄金の男たち
- 2章 最強の神話
- 3章 逆説のリング
- 4章 レトロワールド
- コラム
著者のプロフィール
ミスター高橋
1941年神奈川県横浜市出身。パワーリフティング・ヘビー級初代日本選手権者。1972年、レフェリー兼外国人レスラー担当として新日本プロレス入団。マッチメイカー、審判部長をつとめた。1998年、現役を引退。現在は作家活動のほか高齢者への介護予防運動指導を行っている。『悪役レスラーのやさしい素顔』(双葉社)ほか著書多数。
本の詳細
- 出版社 : 宝島社 (2018/10/24)
- 発売日 : 2018/10/24
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 239ページ